ふるさとの逸品を訪ねて
第1回 鹿児島県出水市

日本最南端の海苔生産地、鹿児島県出水の海苔
おいしい海苔が食べたい。
鶴の越冬飛来で有名な鹿児島県出水市には、もうひとつ全国に誇れるものがあります。福ノ江浜で養殖する海苔です。地元の漁協と浜の漁師が一丸となって海の農薬といわれる酸処理を一切しない、無酸処理の海苔を育てています。

無酸処理の海苔って、ご存知ですか?
現在、日本の海苔養殖は、網を海中に浸けたまま成長させる【浮き流し式養殖法】が主流です。この方法は生産量を増やせるという利点はありますが、潮が引いても網が水中から出ないため、海苔に直射日光が当たらず病気になりやすいのです。その予防に海の農薬といわれる塩酸、リンゴ酸などで酸処理します。しかし、これでは海が汚染される恐れがあります。
出水の養殖方法は、潮が引くと網が海から出る昔ながらの【支柱式】。海面に出た海苔は太陽の光と風を直接浴びると病気の予防になり、香り豊かで味わい深い海苔に育ちます。無酸処理の海苔は香ばしさが際立ち、噛むと「サクサクッと。パリパリでなくサクサクッとする」と、この道25年の漁師の島中良夫さん。口にふくんでもなおその香ばしさを噛んでいるようで、香りが鼻腔から抜けていきます。濃厚といえるほど旨味たっぷりで、上品な甘みを味わうことができ、最後に爽やかな後味がやってくるのです。

守り、残すべき〝宝の海〟がある
出水はいい水の湧くところ。広葉樹林の紫尾山と矢筈岳から栄養たっぷりの水が福ノ江浜に注ぎ込みます。潮が引くと600メートルの浅瀬が出現。海苔には理想的な浜です。出水の漁師たちが無酸処理にこだわるのは、海の汚染から浜を守りたいから。
豊かな森が豊かな海を育てる。自然に委ねながら手をかければかけるほど、まるで子どもを育てている気持ちになるといいます。その思いは、「この豊かな自然をそのまま後世に残したい」という思いにつながっているのです。
「コン海ハ、宝ン海デス」そうつぶやく響きに、ここで生まれ育った漁師たちのやさしさも海に育てられたのだなと納得しました。


出水天恵(あま)海苔株式会社
ZEN CLUB×ORGANIC PRESS
この記事は「オーガニックプレス」とのコラボレーション企画です
執筆者・山口タカ(や組)が「ORGANIC PRESS」に寄稿した連載コラム「気がつけばオーガニック」をもとに新たな取材を加え再編集しました。
https://organic-press.com/column/taka_column_vol6/取材/文 山口タカ(や組) 写真/若杉憲司