ZEN CLUB

2021年04月号 Number.528

ふるさとの逸品を訪ねて

第4回 京都伏見区の地酒

祝米の個性が味わえる「純米大吟醸にごり酒」(写真右)と「純米大吟醸酒 平安京」(中央)。左は、代表銘柄「月の桂 純米酒」。

銘醸地伏見に脈々と息づく酒造りの真髄
京の水と米でかもす京地酒。

古都の南に位置する伏見は、かつて〝伏水〟とも記されたほど、良質で豊かな伏流水に恵まれた土地柄です。名水あるところに銘酒あり。全国に名高い酒どころでは、一時期栽培が途絶えていた京都産の酒米「いわい」を復活させ、京都の水で仕込むという、地産地消の酒造りが行われています。その中で、地元伏見で祝米農家と米作りに熱心に取り組む酒蔵を訪ねました。

名水に育まれた酒造りの伝統

日本酒の主な原料は、米と米麹と水。中でも、「一升の酒に、八升の水がいる」といわれるほど、米より多く使われる仕込み水は酒質にも大きく影響する重要な要素です。伏見の水は、ミネラル分をほどよく含んだ中硬水。名水の恩恵を受け、この地では古くから酒造りが盛んで、その歴史は室町時代にまで遡ることができるといいます。

「伏見の水で醸す酒は、きめが細かくなめらかで淡麗な味わい。灘の男酒に対して、伏見の女酒と呼ばれてきました」。そう話すのは、「月の桂」で知られる蔵元の第十四代当主増田德兵衞ますだとくべえさんです。創業は1675(延宝3)年。およそ350年もの伝統を誇る酒蔵と母屋が、平安京造営の名残をとどめる古道、鳥羽街道を挟んで佇んでいます。日本酒の季節感と個性を何より大切にする蔵元のこだわりは、酒米にも現れています。増田さんは、京都独自の酒造好適米しゅぞうこうてきまい「祝」の復興に尽力されたおひとりです。

酒蔵の中には、純米吟醸のみを貯蔵熟成させた古酒の貯蔵庫も。「江戸時代の文献をもとに、古来より珍重された熟成酒の文化を今に伝えています」と増田德兵衞さん。

京都づくしの酒を造りたい

1933(昭和8)年に京都で誕生した「祝」は、搗精とうせい※しやすく低たんぱく質で、吟醸酒向きの良質品種と高い評価を得ていました。しかし、収量が少ない、丈が高く倒れやすい、高精白に適さないなどの理由で、昭和40年代以降、栽培が途絶えたそうです。そんな幻の酒米「祝」が復活を遂げたのは、1992(平成4)年。「京都の米で、京都の酒を」を合言葉に、伏見酒造組合が中心となって働きかけた成果が実り、今では府内各地の契約農家で栽培され、伏見はもとより京都府内の酒蔵で「祝」の酒が造られているのです。

増田さんの酒蔵では、地元伏見の農家との出会いをきっかけに、干拓地巨椋おぐら池で自然農法による祝米の育成にも取り組んでいます。「米作りは試行錯誤。また、軟質米で扱いが難しいため、酒造りの工程にも祝米ならではの苦労があります」。伏見の田んぼで育てた米で醸造する。老舗蔵元の矜持きょうじとともに、香り高くふくらみのある味わいが醸し出されます。

醪(もろみ)を混ぜて発酵を促す「櫂入(かいい)れ」。
150㎝の背丈にまで成長する晩稲(おくて)品種「祝」。
「月の桂」の銘は、江戸後期に詠まれた和歌に由来する。

月の桂 株式会社増田德兵衞商店