ふるさとの逸品を訪ねて
第5回 大阪府交野市

ミツバチとの共同作業から生まれるピュアな味わい
自然の証純粋はちみつ。
大阪府と奈良県にまたがる生駒山を主峰に、南北約30㎞、東西約5㎞に渡って山々が連なる生駒山系。森林のおよそ7割が「 金剛生駒紀泉国定公園」に指定されていることから、豊かな自然林が手付かずのまま残っています。春、その北端の交野山の麓では、咲き誇る花の蜜を求めて、ミツバチたちが野山を元気に飛び交います。

山と野の力が育む良質のはちみつ
「ミツバチの食事は、花の蜜と花粉。直径3㎞にも及ぶ距離を飛行して懸命に集めた蜂にとっての主食を、人間がいただいています」。そう話すのは、大阪で唯一の移動養蜂家※1 稲田治さんです。1945(昭和20)年に祖父が創業した「茨木養蜂園」の三代目として、大阪と北海道を拠点に稀少なはちみつを自家採取しています。
養蜂園があるのは、大阪府北東部の交野市私市。毎年、春には地元の山の麓に巣箱を並べ、山桜、レンゲ、アカシア、ハゼ、百花 ※2と次々に咲く花の蜜を採取していきます。全国的にレンゲ畑が減少する中、低農薬米の栽培が盛んな交野市では、緑肥※3のレンゲが咲く田んぼも残っているといいます。「蜜源となる花や草木が自生するこの辺りは、養蜂に最適の場所。山や野に力があるからこそ、質のよいはちみつが採れるのです」。巣箱から飛び立ち、蜜や花粉を集めてもとの巣箱へと持ち帰る。ミツバチの営みを豊かな自然が支えています。

混ぜものなしの 美味しさを届けるために
ひとつの巣箱を構成するのは、1匹の女王蜂と、少数の雄蜂、働き蜂である雌蜂です。それぞれに役割があり、蜜を集めることとその蜜を巣箱の中で熟成させるのは、働き蜂が担っています。タイミングを見極め、働き蜂が巣に貯えた蜜を採蜜するのが養蜂家の仕事です。「早すぎると水分が多くて糖度も低い。長くおけば水分が飛び糖度は上がるものの、いろんな花の蜜が混じってしまうのです」と稲田さん。熟成する頃合いで巣を取り出し、遠心分離機にかけて網で濾せば、創業以来受け継がれる〝混ぜものなしのはちみつ〟ができ上がります。
6月、稲田さんは6tトラックに巣箱を積んで、遅い春を迎えた北海道へと旅立ちます。函館から75㎞ほど離れた大自然の中、蜂の世話をしながら夏を越すのです。移動の目的は採蜜よりも、蜂を増やすことと蜂が暮らす環境のため。砂糖水をエサにするより、自然に咲く花の蜜を食べる方が蜂には優しく、それこそがはちみつの美味しさにつながるからです。「蜂が元気でいることが一番のやりがい」ということばに、純粋無垢のはちみつづくりへの思いが込められています。
茨木養蜂園
- URL:http://iba83.com
- TEL:072-892-4132