ZEN CLUB

2021年05月号 Number.529

ふるさとの逸品を訪ねて

第5回 大阪府交野かたの

アカシア」、「レンゲ」、「百花」と、花による香りや味の違いが楽しめる。

ミツバチとの共同作業から生まれるピュアな味わい
自然の証純粋はちみつ。

大阪府と奈良県にまたがる生駒山を主峰に、南北約30㎞、東西約5㎞に渡って山々が連なる生駒山系。森林のおよそ7割が「 金剛生駒紀泉こんごういこまきせん国定公園」に指定されていることから、豊かな自然林が手付かずのまま残っています。春、その北端の交野山の麓では、咲き誇る花の蜜を求めて、ミツバチたちが野山を元気に飛び交います。

山と野の力が育む良質のはちみつ

「ミツバチの食事は、花の蜜と花粉。直径3㎞にも及ぶ距離を飛行して懸命に集めた蜂にとっての主食を、人間がいただいています」。そう話すのは、大阪で唯一の移動養蜂家※1 稲田治いなだおさむさんです。1945(昭和20)年に祖父が創業した「茨木養蜂園」の三代目として、大阪と北海道を拠点に稀少なはちみつを自家採取しています。

養蜂園があるのは、大阪府北東部の交野市私市きさいち。毎年、春には地元の山の麓に巣箱を並べ、山桜、レンゲ、アカシア、ハゼ、百花ひゃっか ※2と次々に咲く花の蜜を採取していきます。全国的にレンゲ畑が減少する中、低農薬米の栽培が盛んな交野市では、緑肥※3のレンゲが咲く田んぼも残っているといいます。「蜜源となる花や草木が自生するこの辺りは、養蜂に最適の場所。山や野に力があるからこそ、質のよいはちみつが採れるのです」。巣箱から飛び立ち、蜜や花粉を集めてもとの巣箱へと持ち帰る。ミツバチの営みを豊かな自然が支えています。

気温が15℃になった3月初旬、今シーズン初めて巣箱を開け、蜂の元気な姿を確認する稲田さん。4月中旬の産卵期に向けて、花粉や砂糖水を与え産卵を促していくという。

混ぜものなしの 美味しさを届けるために

ひとつの巣箱を構成するのは、1匹の女王蜂と、少数の雄蜂、働き蜂である雌蜂です。それぞれに役割があり、蜜を集めることとその蜜を巣箱の中で熟成させるのは、働き蜂が担っています。タイミングを見極め、働き蜂が巣に貯えた蜜を採蜜するのが養蜂家の仕事です。「早すぎると水分が多くて糖度も低い。長くおけば水分が飛び糖度は上がるものの、いろんな花の蜜が混じってしまうのです」と稲田さん。熟成する頃合いで巣を取り出し、遠心分離機にかけて網でせば、創業以来受け継がれる〝混ぜものなしのはちみつ〟ができ上がります。

6月、稲田さんは6tトラックに巣箱を積んで、遅い春を迎えた北海道へと旅立ちます。函館から75㎞ほど離れた大自然の中、蜂の世話をしながら夏を越すのです。移動の目的は採蜜よりも、蜂を増やすことと蜂が暮らす環境のため。砂糖水をエサにするより、自然に咲く花の蜜を食べる方が蜂には優しく、それこそがはちみつの美味しさにつながるからです。「蜂が元気でいることが一番のやりがい」ということばに、純粋無垢のはちみつづくりへの思いが込められています。

はちみつができるまで。
外勤のミツバチは山に咲く花をめがけ飛び回り、蜜を集めます。蜜を集めた働き蜂は自分の巣に戻ると内勤の働き蜂に口移しで蜜を渡します。巣に運ばれた蜜を内勤のミツバチが羽であおいだりして空気に触れさせ余分な水分を飛ばして巣穴に貯蔵します。さらりとした花蜜が熟成してとろりと濃厚なはちみつになります。

茨木養蜂園