ZEN CLUB

2021年09月号 Number.533

ふるさとの逸品を訪ねて

第9回 富山県黒部市

左端から時計回りに、「青巻あおまき」「昆布巻」「地曳 あなご」「地曳じびき 紅鮭」「やわらか しそ」「焼角やきかく」「赤巻あかまき」。中央は「地曳 えび」。

独特の形や彩りに伝統が息づく
富山のご当地かまぼこ︒

「かまぼこ」は、日本人にとってなじみ深い食品の一つ。酒の肴やお弁当のおかずとして親しまれ、また縁起ものとしておせち料理に欠かせない食材です。地域ごとに形や風味、食感の違いがあり、郷土色も豊か。その土地ならではの食文化が育まれています。中でも、独自のかまぼこ文化が根付く北陸・富山に、その味わいを訪ねました。

魚をよりおいしく食べる知恵と工夫

富山県北東部、黒部川の左岸に広がる黒部市街。清流がつくり出した扇状地せんじょうちには農作物が豊かに実り、扇端部では立山山麓からの地下水がこんこんと湧き出しています。黒部市生地いくじは、名水百選にも選ばれた湧水が点在する「清水しょうずの里」。富山湾に面した古くからの漁師町です。

「かまぼこは、弾力を楽しむ食べ物。魚をすり身にして加熱するひと手間で、食感が違ってくるのです」。そう語るのは、創業90余年の老舗「生地蒲鉾いくじかまぼこ」の四代目・中陳新平なかじんしんぺいさん。初代がこの地に創業して以来、かまぼこ製造一筋に伝統の味を受け継いでいます。生地蒲鉾の特徴は、しなやかな食感にあると話す中陳さん。「しなやかさとは、押し戻ってくるような弾力のこと。単なる歯ごたえとは違い、噛んだときに反発する力が加わり、他にはない食感が生まれます」。独自の〝しなやかさ〟を出すため、主原料のスケソウダラの冷凍すり身を吟味し、高品質の材料のみを使用。食感を左右する澱粉でんぷんの配合を控え、成型後の「すわり」※1と呼ばれる工程では2〜10℃の低温下で一晩寝かせるなど、手間を惜しまず、しなやかな口当たりに仕上げています。

華やかなかまぼこに慶びの心を託す

かまぼこは、蒸す・焼く・揚げるなど製造方法もさまざまで、古くから各地で特徴あるかまぼこが作られてきました。「富山では、蒸しかまぼこが主流。また、板には載せず、渦を巻いた形のまきかまぼこが定番です」と、中陳さん。中でも、昆布巻かまぼこは、江戸時代に北前船きたまえぶね※2で運ばれた昆布ですり身を巻いたのが始まりと伝わる富山伝統の味。生地蒲鉾でも、北海道産の肉厚の真昆布を使い、風味豊かに作られています。

もう一つ、富山のかまぼこ文化を語る上で欠かせないのは、細工かまぼこの存在です。鯛や鶴亀など、縁起物の絵柄が施されたかまぼこは、結婚式をはじめとする祝宴を彩ってきたといいます。祝いの席に呼ばれた人が引き出物や膳料理を持ち帰り、ご近所に「おすそ分け」する風習がある富山では、細工かまぼこは分けやすく、日持ちもすることから定着していったそうです。かつて、大きさを競った細工かまぼこも、時代とともに小型化・多様化の傾向に。今では、節句やバレンタインデーなどにも登場し、新たな幸せの場面を彩っています。


「県外の人にも細工かまぼこの魅力を知ってほしい」と話す中陳新平社長。手に持っているものは、大きな鯛の細工かまぼこ。
熟練の職人技で緻密な細工が施される。
かまぼこの弾力からネコの肉球を連想し商品化された「にゃんかま」。
すり身に塩・水を加え撹拌した後、商品に合わせ成型する。
型にすり身を詰めるのは一つひとつ手作業。
豊かな湧水が暮らしを潤す生地地区。かまぼこ作りにもこの名水を使用。

生地蒲鉾有限会社