ZEN CLUB

2021年10月号 Number.534

ふるさとの逸品を訪ねて

第10回 広島県尾道市

季節の果実と手仕事との出会い
自然の恵みを詰めたジャム。

尾道水道と呼ばれる幅約300mの海峡を隔て、文字通り尾道市街の向かいに位置する向島むかいしま。瀬戸内の温暖な気候の中、島ではみかんやイチジクなどが特産品として栽培されています。そんな自然の恵みを素材に、丁寧な手仕事でジャムづくりを行う上杉裕加うえすぎゆうかさんの工房を訪ねました。

手作りの楽しみがジャムづくりの原点

上杉さんが主宰するのは、「季節のジャムと日々のおやつcosakuü(コサクウ)」。最初は自宅でジャムづくりを始め、徐々に季節の素材でつくるジャムを待つお客様が増えてきたことから、2017年11月に本格的な工房をスタートさせました。コサクウとは、方言で「つくる」を意味する「こさえる)」と、「たべる」という意味の「う」を由来とする造語といいます。

ジャムづくりの直接のきっかけは、「結婚後、義父から大崎上島おおさきかみじまの畑で獲れた柑橘類を加工してもらえないかと相談されたこと」なのだとか。 もともとお菓子作りが好きで、母親と焼き菓子を作った子供時代の体験もきっかけの一つと話す。調理師やフードコーディネーターの資格を持つ上杉さん。「自分が作ったものを誰かに食べてもらうという幼い頃の楽しみが、しだいに仕事へと変わっていきました」。

作り手の想いをひと瓶のジャムに詰める

「向島は柑橘類の栽培がさかん。八朔はっさく不知火しらぬい、はるみ、キンカン、レモンなど、たくさんの種類が収穫されます」。工房で使用するのは、地元の柑橘類をはじめ、近郊や瀬戸内エリアの果物や野菜。生産者とのつながりを大切に、畑に出向いて収穫作業を手伝うこともあるそうです。「安心して食べて欲しいという思いから、できるだけ無農薬、減農薬で育てる農家さんのものを選んでいます」という上杉さん。自身の目で選び抜いた素材は、まずひとかじり。その時に感じた酸味や甘味、食感から、他の食材との組み合わせやアクセントに加えるハーブ、スパイスのイメージが広がるといいます。「例えば、〝苺・ミント・ブラックペッパーjam(ジャム)〟は、肉料理に合わせるという発想から生まれたもの。パンやヨーグルトだけでなく、ドレッシングにもアレンジしてほしい」と話します。  作る工程で大切にしているのは、皮をく、タネを取る、細かく刻むといった丁寧な下ごしらえ。「時間はかかるけれど、できあがりの味を想像するとわくわくしながら作業できます」と、手間暇を楽しむ様子がうかがえます。きび砂糖やてんさい甜菜糖※を使い、ひと鍋ずつ優しい甘さに炊かれるジャム。瓶の中には「拵えて食べる」ことの豊かさが詰まっています。

「ジャムを炊いている時は、農家さんや食べてくれる人たちとのつながりを感じながら作業している」と話す上杉さん。生産者の方への感謝やおいしく食べてほしいという思いが込められている。
柑橘類の下準備は、皮と実、果汁に分けることから。
素材の個性を活かし、ひと鍋ごと丁寧に炊かれる。出来上がるジャムは、ひと鍋で20〜30個。

「ダルメイン世界マーマレードアワード 2021」プロ職人部門で金賞・銅賞を受賞

世界30ヵ国以上、3000本以上の中からコサクウのジャム4種が受賞。この賞を受賞するのは2017年より5年連続。写真は、金賞の「獅子柚子・はちみつジャム」。

cosakuü(コサクウ)