ZEN CLUB

2022年 08 月号 Number. 544

不動産・建設関係のトレンド

建物のライフサイクルをトータルに考えるこれからの環境配慮建築

不動産・建築関係のトレンド 建物ライフサイクルをトータルに考える これからの環境配慮建築

地球温暖化の影響で日本でも異例の猛暑が続いています。この温暖化の原因となっている温室効果ガスはCO2の排出によるもので、建物のライフサイクルを通じて排出されるものが全体の約3分の1を占めています。
これからの時代、環境破壊はもちろん、資源の枯渇や脱炭素なども考慮しながら建物のライフサイクルを考えていくことが求められています。そこで今回、環境配慮建築についてご紹介します。

住まいに関わるCO2排出量は全体の約30%で影響大

建設の際、施工から管理、運用、解体までの間に多くのCO2を排出し、建築現場では年間1.4千CO2トンもの燃料が燃焼されています。ちなみに人が住み始めてからもCO2排出量は増え続け、日本でのCO2排出量のうち、家庭部門から排出されているCO2が16%を占めていると言われています。内訳は暖房が約20%、給湯が約20%、照明・家電製品が約50%。それがどれくらいの量かイメージしにくいのですが、1世帯あたりに換算すると年間約3.4トンにもなり、このCO2を杉の木が吸収するためには約384本分も必要ということから、かなりの量になるということが想像できます。建物が環境に与える負荷がいかに大きいことか、お分かりいただけるのではないでしょうか。

エコマテリアルの利用によりエネルギー消費を低減できる

高度経済成長期を経た日本をはじめ、世界中で大量生産、大量消費、大量破棄が当たり前になりました。しかしこれからは持続可能な社会の実現に向けて建設業界も動き出さなければなりません。

最近では環境に配慮した住宅部材の開発も盛んで、「エコマテリアル」もその一つです。エコマテリアルとは、1.寿命が長いこと 2.リユース(再使用)しやすいこと 3.製造時のエネルギー(化石燃料の消費)が少なくCO2の排出量が少ないこと 4.自然分解してゴミにならずに自然に帰ることができる材料、というのが条件。近年再注目されている木材もエコマテリアルです。木は伐採しても植樹すれば再生します。森林を健全な状況にするためにも間伐は重要なのですが、木の間引きをすることで森林全体のCO2の吸収量が高まるため、木造建築が増えても環境破壊につながるということはありません。そのほか日本で古くから使われてきた漆喰、竹材、コルクなどもエコマテリアルです。

建物の長寿命化や耐震化の必要性が高まる

エコマテリアルの利用以外にも既存建物の「長寿命化」や「耐震化」も重要視されています。どちらもさまざまな企業が技術革新に取り組んでいます。例えば、公共施設では当たり前だった長寿命化は、マンションやビルなどの民間が管理する建物でも導入されています。2009年に「長期優良住宅認定制度」が発足。

この制度ができたことで、既存のビルやマンションについても高いメンテナンス性やフレキシブル性が求められるようになりました。耐震性という点では、高耐久・高耐震の構造体が利用されることが増え、定期点検の実施や計画的な補修プランの作成、用途の変化に対応できるフレキシブルで改修しやすい平面設計、建築履歴(メンテナンス履歴)を作成して、保存することで、建物の寿命を延ばすということにも力を入れている企業が増えています。SDGs(持続可能な開発目標)が叫ばれる中、今後はますます建物のメンテナンスや耐震についてもニーズが高まるでしょう。

スクラップ&ビルトはもう古い!?既存躯体の再利用が拡大

老朽化した建築物を新築と見劣りがない状態に改修する建築手法も注目を集めています。

通常、建物を建て直すには、躯体を含めてすべてを解体し、改めて躯体を新設することで建物を作り上げていきます。一方、既存の躯体を利用する場合には、まず建物の耐震性能上、問題のない壁や設備を撤去して建物を軽量化した後、躯体の調査や補修、補強をした上で躯体の大半を再利用します。その結果、建物を建築するときに排出されるCO2の量を大幅に軽減できるというわけです。既存躯体の80%以上を再利用するという新宿のあるマンション計画では、躯体の資材製造に伴うCO2排出量1,761トンに対して、既存の躯体を再利用することで全体のCO2排出量を1,721トン(約72%)も削減するという試算がたっています。建物も躯体以外の内外装材などを一新することで、まるで新築同様の出来栄え、さらに環境に配慮できるということで、広く注目を集めています。

2022年に入り、CO2排出量ゼロをうたう建築工事なども登場し、既存躯体の再利用による建物再生は今後も増加が見込まれます。これからも建設の現場では環境に配慮した新しい取り組みが登場することが予測されます。私たちもどうすれば、地球環境に配慮しながら建物をつくることができるのか、試行錯誤が求められています。

CHECK POINT

温室効果ガス排出・吸収量(百万トンCO2換算)

温室効果ガス排出・吸収量(百万トンCO2換算)

2020年度の総排出量は11億5,000万トン(CO2換算)で、2014年度以降7年連続で減少。排出量を算定している1990年度以降最少を記録し、3年連続で最少を更新しています。しかし、2020年度の森林等の吸収源対策による吸収量は4,450万トンにすぎず、減少傾向が続いています。

※環境省脱炭素社会移行推進室、国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィス「2020年温室効果ガス排出値(確報値)」より

ワンポイント コラム

建物を環境性能の面から評価する「CASBEE(建築環境総合性能評価システム)」

2001年に国土交通省の支援のもと開発されたCASBEE(建築環境総合性能評価システム)とは「Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiency」の頭文字をとったもので、省エネや省資源・リサイクル性能などの環境負荷削減、室内の快適性や景観への配慮等の環境品質・性能の向上といった側面も含めた「建築物の環境性能」を総合的に評価し、格付けするシステムで、継続的に改良が重ねられています。

「建物の環境品質・性能〈Q〉」と「建物の環境負荷〈L〉」について個別に評価を行い、その値に基づいて5段階で評価。専門的な知識のない消費者もCASBEEによって客観的な環境性能を具体的に知ることができるのは大きなメリットです。また、地方自治体によっては高評価のプロジェクトに補助金が出ることもあります。

住宅を評価する制度として「長期優良住宅認定制度」もあります。この基準をクリアした家は、長く快適に住み続けられる「長期優良住宅」と認定され、住宅ローン金利の優遇などのメリットがあります。しかし、長期優良住宅の評価ポイントに対してCASBEEは居住性より環境性能に重きを置く傾向があり、長期優良住宅に認定されても、CASBEEの高評価は得られない場合があります。

CASBEEと同様の評価方法は欧米では既に実用化されており、日本ではまだ一般的な認知度は高いとはいえませんが、企業が社会的責任を果たすひとつの証左として、今後CASBEE による高評価を目指す取り組みは増加すると見られています。

建物の環境品質・性能:Q(Quality)の評価項目:室内環境、サービス性能、室外環境(敷地内)/建物の環境負荷:L(Load)の評価項目:エネルギー、資源・マテリアル、敷地外環境