ZEN CLUB

2022年 09 月号 Number. 545

不動産・建設関係のトレンド

インフレ、円安、ウッドショック・・・住宅購入は今か?待ちか?

不動産・建設関係のトレンド インフレ、円安、ウッドショック・・・住宅購入は今か?待ちか?

新型コロナウイルス感染症が広がり、リモートワークが進み、この数年で私たちのライフスタイルも大きく変化しました。
さらに今、円安やウッドショックなどの影響が住宅価格にも表れてきています。
「先行き不透明な時代だから、住まいという資産を早く得て安心したい」という人も少なくありませんが
2022年は住宅購入に良いタイミングなのか、それとももう少し様子を見るべきなのでしょうか。
今回は、住宅購入を取り巻く状況について、現在と少し先の未来を紐解いていきます。

2022年前半、経済環境が激変 今、起こっている変化とは?

日本では時間がかかると思われていたリモートワークの一般化が、新型コロナウイルス感染症によって急速に定着し、働き方や暮らし方の常識が大きく変化しました。ほかにも急変する世界情勢など住宅価格の変動は様々な要因が重なります。

この数年はコロナ禍で打撃を受けた経済を立て直すため、海外主要国も金利引き下げなどの金融緩和政策をとってきました。回復の兆しが見えかけた時に、ロシアのウクライナ侵攻の影響により原油価格が上昇、それに伴い各国のインフレ率も急上昇。サプライチェーンに混乱が生じていることでも経済活動の停滞は続いていますが、それでも各国では金融緩和縮小の動きが見えます。

一方で、日本は金融緩和政策継続姿勢を維持。今年上半期で日米の金利差は広がり、長期金利で比べると、約1.5%から2倍の約3%へ拡大、低金利の円を売ってドルを買う動きが強まりました。日米の金融政策の方向性の違いは鮮明で、円安・ドル高傾向はまだ続くと見られています。

また、注視しておきたいのが「生産緑地2022年問題」です。

都市部の住宅地にある「生産緑地」は全国に12,972.5ヘクタール、東京ドーム約2,760個分の「生産緑地」があります(「平成29年都市計画現況調査」国土交通省)。「生産緑地」の指定を受けると、土地所有者は農業経営の義務が生じると同時に、市街化区域内の他の農地に比べて固定資産税が大幅に軽減されるというメリットがあります。

当初、2022年には「生産緑地」の指定が一斉に解除される予定でしたが、2017年に生産緑地法が改正され、10年延長できることになりました。しかし生産緑地の指定から外れた土地が多く出回れば、土地の価格が下がる可能性があります。

不動産価格にも影響を及ぼすウッドショックの長期化

昨年ごろから「ウッドショック」というワードを耳にする機会が増えました。コロナ禍により世界的に巣ごもり需要が拡大したと同時に、労働者や製材工場の稼働率が下がり木材が不足、価格が高騰しました。また国際輸送が滞ったこともウッドショックの原因の一つです。

輸入木材やそれを原料とする建材を用いるローコストの注文住宅や建売住宅はとくにウッドショックの影響も大きく、しかも未だ明るい見通しが立ちません。

建材や資材の価格が建物の価格を左右するのは当然ですが、新築はもちろん中古住宅のリフォームであっても、輸入木材はこれまで以上に価格に大きく影響します。この傾向はまだしばらく継続すると見られています。

不動産価格指数と地価公示ともに上昇傾向が続く見込み

不動産価格指数や地価公示も、動向を継続して追っていると住宅購入検討の際に参考になります。

全国の住宅総合の季節調整値は前月比0.6%増。商業用不動産では前期比で0.3%下落しているものの、住宅、特にマンションの価格は上昇しています(2022年6月30日「不動産価格指数」国土交通省)。戸建て・土地に関しても増加傾向にありますが、地方によってかなり落差が見られます。

地価公示は毎年3月下旬に国土交通省土地鑑定委員会が公表する土地評価で、土地取引価格の指標になります。コロナ禍の影響が少しずつ弱まり、全用途平均(+0.6%)、住宅地(+0.5%)、商業地(+0.4%)のいずれも2年ぶりに上昇に転じました。

低金利や住宅ローン減税の効果によって、一般消費者の住宅購入への意欲が低下しなかったことが要因と考えられます。

金利や価格など外的要因だけでなくライフプランを十分に検討して

全国的に住宅については回復傾向が見られますが、地域によって状況に違いがあるのも事実です。

総務省「2021年 住民基本台帳人口移動報告」によると、東京圏全体では神奈川、埼玉、千葉などで81,000人余りの転入超過でしたが、例年なら転入者の多い東京23区については、2021年5月から8カ月連続で転出超過になっています。

一方、茨城、山梨、群馬では前年の転出超過から転入超過へ。都市部から郊外への人口移動が読み取れ、それが地価に影響していると考えられます。

金利の引き上げやウッドショックの深刻化、地価の上昇などが起きる前に購入するのも考え方のひとつです。

とくに2022~23年に新築住宅に入居した場合、住宅ローン控除期間が13年に延長されています。2024~25年入居の場合は控除期間が10年なので、延長期間中に行動を起こすというのも一つの選択肢と言えるでしょう。

住宅購入は最も安いタイミングで購入したいものですが、一番重要なのは住む人のライフプラン。結婚や出産、子どもの進学など、家族のライフイベントに合わせて考えてみることが大切です。

CHECK POINT

住宅の買い時意識

今(今後1年程度)は住宅取得のチャンス(買い時)だと思いますか?
住宅取得のチャンス(買い時)だと思う理由

ワンポイント コラム

不動産相場が下落する?「生産緑地の2022年問題」とは

生産緑地とは市街化区域内の農地として保全することを主目的とした土地のこと。1992年の改正生産緑地法により、一定条件を満たす土地に対し税制優遇を受けられる代わりに30年間の農業経営の義務が課せられるというものです。

一定の条件とは①農林漁業の生産活動ができるか ②病院や公園、緑地などの公共施設やその他公益性の高い施設の敷地を供する土地として適しているか ③面積が500㎡以上であること ④当該農地の所有者とその他の権利者全員が同意していること などです。生産緑地として指定されると30年間売却や転用ができませんが、その後は市区町村に時価で買い取りの申し込みができます。しかし、自治体が買い取る可能性はあまり期待できません。1992年に指定された生産緑地の多くは今年、優遇措置が終了します。税金を払えなくなった農家は農地を売却し、自治体に買取されなかった土地は市場に大量に売りに出されます。不動産市場の混乱や都市環境の悪化を引き起こす可能性などが懸念されている、これが「生産緑地の2022年問題」です。

このことは国も課題と認識し、申請すれば営農を続けるなどの条件で、生産緑地と同等の優遇措置を10年間延長する特定生産緑地制度が生まれました。ほかにも生産緑地の最低面積も500㎡から300㎡へ引き下げたり、これまで生産緑地内には何も建設できなったルールが緩和され、第三者に農地を貸し出すことや、収益を得られるレストランや施設も併設すること、獲れた作物を製造・販売・加工することが可能になりました。

では、生産緑地の2022年問題で不動産相場はどうなるのでしょうか?

特定生産緑地制度により更に10年の猶予を得られるため、一気に売却される可能性は低くなりました。国土交通省の調査によると、現時点で生産緑地を持つ全国の農家の約90%が「継続する」と答えています。農業を継続するための後継者不足や今後の法改正など、不確定な要素はあるものの、従来のバランスが崩れるほどの不動産価格の暴落は起きない可能性が高いと見られています。